食わずぎらいがなおったら。

田代さんがやっと戻ってきた。チームリーダーの半田さんと話している。

「米沢さん、どうかな」

「使い物にならないから、今日は帰そうかと」

「そうだね、まぁ段取りついたし、こっちは平気ですよ」



平内さんが聞いてて、声をかけている。

「俺、近いから送っていきますよ」

「いや、タクシー乗せるからいい。電車に乗れるような状態じゃない」

仕事中の話だけど、香さんを取り合ってるように見える。



電車に乗れないって、泣いちゃってるってこと? あの香さんが? 私のせいなのに。

どうしよう。




田代さんが、私に向き直った。今度こそ怒られるって身構えたのに。

「植木、香ちゃんの机片付けてくれる?荷物ってわかる?」

「はい。すぐに持っていきます」



言いながら、急に悔しくなってきて声が震えた。

香さん、香さん、みんな香さんのことしか考えてない。

私だって仕事してる、私がやったんだよ。

いないみたいに扱わないでよ。



「俺が戻るから大丈夫。植木は帰って」



帰って。



結局それかと思ったとき、続けて厳しめの声でテキパキと指示された。

「それから、ミスの原因考えて、明日改善案作って。自分のことじゃなくて、誰にとっても再発防止になるように。案ができたら、香ちゃんと武田と話して固めてもらうから 」

「はい。あの、すみませんでした」

震えたままの声でやっと言った。でも、私にも謝る機会が来て、ほっともする。



少し間をおいて、田代さんが静かに響く声で言った。

「植木、若いうちに失敗、しとくといいよ」

「はい」





何も厳しいことを言われなかったけど、叱られて、許されたと思った。

許されて、やることを与えられたってことだろう。

香さんが田代さんを尊敬してるって、こういうところ。初めてわかった。



いじけてないで、やるべきことをやらなくちゃ、私も。
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