恋は理屈じゃない
贅沢な非日常空間に憧れてうっとりとしながら立ち止まっていると、速水副社長がダイニングに向かって行った。
冷蔵庫の中、グラスの汚れ、間接照明の明かり、テレビの裏側。速水副社長は次から次へとチェックをしていく。
「あ、鞠花ちゃん。その花はリビングテーブルの上に置いてくれ」
「はい。わかりました」
いけない。ぼうっとしている場合じゃなかった……。
慌ててリビングテーブルの上にアレンジメントを置いた。すると突然、目の前の光景がグルリと回り出す。
あっ……。
平衡感覚がなくなり足もとがふらつく。自力で立っていられなくなった私は、その場でしゃがみ込んだ。
すぐ、目眩は治まる……。
瞼を閉じて自分に言い聞かせるように心の中で呟いていると、速水副社長の声が近くで聞こえた。
「鞠花ちゃん、どうした?」
「……突然目眩がして」
「大丈夫か?」
ゆっくりと瞼を開くと、もう目眩は治まっていた。
「はい。平気です」
ホッとしながら、その場から立ち上がる。けれど足に力が入らずに、またふらついてしまった。身体の重心が後ろに傾き、倒れそうになる。そんな私の手首を、速水副社長が掴んだ。
「無理をするんじゃない」
「す、すみません」
手首を引き寄せられ、すぐに身体がふわりと浮き上がる。