恋は理屈じゃない
え、嘘でしょ……。
抵抗する間もなく身体を横抱きにされて、慌てふためいた。
「今すぐ病院に行こう」
「大袈裟です! もう本当に目眩はしないですからっ!」
足をバタバタと動かして、必死に抵抗を試みる。
「わかったから、そんなに暴れるな。落ちるぞ」
「はい……すみません」
間近に迫った速水副社長の白い視線が痛くて、彼の逞しい腕の中で縮こまった。
「できれば首に手を回してもらえると、抱きやすいんだがな」
「……こう、ですか?」
「ああ。それでいい」
速水副社長に言われた通り、腕を回す。けれど、さらに近くなったその距離が恥ずかしくて、顔を伏せた。
速水副社長にお姫様抱っこされるのは二度目だけど、一度目は酔っていて記憶がない。
お姫様抱っこって、こんなに心地いいんだ……。
ゆらゆらと安心できる揺れに身を任せる。けれどその時間は、あっという間に終わってしまった。ソファの上に、ゆっくりと身体を下ろされる。
「こういったことはよくあるのか?」
お姫様抱っこを経験してドキドキした鼓動をなだめるために胸に手をあてていると、速水副社長が右隣に座った。
「……ここまでひどいのは初めてです」
目眩とふらつきの原因は、寝不足と貧血。
体調管理ができていない自分が情けない。膝の上にのせた手をギュッと握りしめた。