欲情プール
そんな中、茉歩が退去する日がやって来た。


「出発するようだよ。
降りて、何か言わなくていいのかい?」


「……ああ」

今の俺じゃ顔向け出来ないし。
会えば、またその手を掴んでしまいそうで…


だけど居ても立っても居られなくなって、咄嗟に窓からその後ろ姿を追った。

途端、進んでた茉歩の足が止まる。


こっちを向いてくれるんじゃないかって、バカみたいに胸を高鳴らせてると…

その足はまた静かに動き始めて。


去って行く背中を見送りながら…

茉歩への想いが、この胸で静かに暴れ狂う。



ー「慧剛を愛してるの」ー

きっと、俺達の間に愛はあった。
だけどお互いを想うあまり、身体だけで繋がってた。

なんて、ただの願望かもしれないけど…


俺はたぶん、最初から何か特別なものを感じてた。

触れた瞬間、本能的に。

だから俺たちは、特別な何かで繋がってるんだと信じたい。


そしていつか地盤を整えて、正々堂々想いを告げたい。

欲情でカモフラージュして、身体でしか伝えられなかったこの想いを…

一度も口に出来なかったこの愛を。


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