スノー アンド アプリコット
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目が覚めると、あたしは裸のまま、抱き枕みたいに、裸のユキに包まれていた。
いつもはあたしがこのベッドにいる時、こいつには床で寝させていたのに。
この状況が、昨日の夜のことは夢じゃなかったんだとあたしに思い知らせる。
夢なわけ、ないけど。身体に染み付いた生々しいこの感覚が、夢のはずはないけど。
目を凝らしてベッドサイドの時計を見ると、まだ5時半だった。その脇にあるゴミ箱に捨てられている残骸の数を数える気にもならない。
どれくらいの時間ああしていたのかわからないけれど、あまり寝ていないことは確かだ。それなのに、本当に久しぶりに、ぐっすり眠ったという爽快感があった。
頭がスッキリと冴えていて、それが余計に悔しさを鮮明にした。
…こいつ、どうしてやろうか。
あたしは歯ぎしりしたくなるような思いで、すやすやと寝息をたてるユキの寝顔を睨みつける。
いや……でも待って、昨晩のこいつはどう考えたって、尋常じゃなかった。
ヤバイ男に深入りするのは危険だ。
キャバクラ時代に、いやってほど色んなケースを見てきた。
あたしは、さっさとここからオサラバするべきなんじゃないのか。
はたとそう思い当って、ユキの腕の中から抜け出そうとする。ところが意外に筋肉のついた腕は重くて、それをどかすのは一苦労だった。
そうだ、これは、あたしを軽々と押さえつけた男の腕なんだ。
美形だイケメンだって騒がれていても、キャンキャンあたしの周りで吠えている、犬みたいな奴だったのに。
それがヤバイ男ですって?
ユキのくせに!
このまま逃げるなんて悔しすぎる。
あたしは上体を起こすと、寝ているユキの頬に平手打ちをかました。
パァン!!
我ながらいい音がした。少し胸がすっとした。
「?!」
ユキが跳ね起きた。目を丸くして頬をおさえて何が起きたのかという顔であたしを見る。
「てめえ! 何すんだよ! 俺がこの美形を腫らして大学歩いたら一大ニュースだぞ!!」
顔がいい、頭がいいとユキはいつも自分のことを言うけど、一番いいのは、威勢だ、とあたしは思っている。
だからあたしもいつも負けじと声を張り上げる。
「盛大に笑われりゃいいのよ! あんた自分が何したのかわかってんでしょうね!!」