スノー アンド アプリコット
どんなに袖にされても、一井はそんな会話を愉しんでいるようで、にこにこして帰り、そしてまた来る。
「一井さん、あのね。あたし結婚するんです。だからこういうのほんと困るんです。」
「へーえ?」
一井は眉を上げてわざとらしく驚いてみせた。テレビに出るようになると、一挙一動、人に見せつけるようになるのか。元々芝居がかった人なのか。どうでもいいけど。
「それ、どんな男? 杏奈ちゃんが選ぶ男って興味あるな。ランチでもしながらゆっくり聞かせてよ。」
…退かない。しつこい!!
どいつもこいつも!!
職場にも関わらず癇癪を起こしそうになって、ふと、あたしは思いついた。
そう。
シェフ。イケメン。有名人。芝居がかっている。
あれ…
「使える?」
「ん?」
一井があたしの呟きに首を傾げた。
「一井さん。あたしの条件呑んでくれるなら、ランチしてもいいですよ。」
「何何?」
一井はわくわくした様子で身を乗り出してきた。
そう、この男はイケメンで有名人で芝居がかっていて、しぶとくて、ふてぶてしい。おまけにあたしがどんな女か、見透かしたような目でからかい半分でちょっかいをかけてくる。
本当に見透かしてるっていうなら、協力してもらおうじゃないの。
「それはここじゃ言えませんけど。」
「ひどいな、内容を知らせずに条件を呑ませるの?」
「二つあります。」
「ランチ一回で? 高いなあ。」
「嫌ならいいですよ。別に。」
「わかったわかった。」
降参、と一井は両手を上げた。
だけど楽しそうに笑っていた。