スノー アンド アプリコット
「あー、もしかしてあれ? お坊ちゃまくん。」
一井が出入り口の方を見て言った。あたしがユキの話をしてから、一井は一貫してユキをお坊ちゃまくんと言う。本当にお坊ちゃまだから、あたしも何も言わない。
「ああ、そう。あれ。」
「えーっ、なんかスタイリッシュだな。カッコイイじゃん。想像と違うなあ。」
「そう?」
いつも伸びる前に整えている黒髪をさらっとなびかせながら、あたしたちを探している。
確かに周りの客が振り返ってユキを見ていた。
昔からユキは周りからキャーキャー言われていたけれど、あたしにとっては下僕に過ぎない。何しろ初めて会った時、奴は中学生だった。それでも、周りのクラスメイトは騒いでいたけれど、馬鹿じゃないとしか思えなかった。
あんなの、ガキじゃない。
「あ、気づいた。」
一井が友達みたいに、ユキに向かって片手を上げている。ほんと、見上げるほど馴れ馴れしい。
ユキが大股でまっすぐ近づいてきながら、てめえ、と言った。
「帰らないなら帰らないで連絡しろ! 心配するだろ!」
「一緒に住んでるわけでもないのに何なの? あたしがどこに泊まろうと自由でしょ。」
「まあまあ。」
一井がにこやかに止めに入って、座ろうとしているユキに手を差し出した。
「初めまして。」
「………」
ユキが眉をきつく寄せて一井を見た。
黒いTシャツに、濃い色のジーンズを履いている。対照的な二人だ。表情から服の色、髪の色、眼の色まで。
照明に透けて薄い茶色にきらめく一井の瞳を、ユキの漆黒の両眼が鋭く射抜いた。
「誰。」
差し出された手は取らずに、座ってあたしを睨みつける。
「誰って、昨日の今日であんたに会わせる人なんて、決まってんでしょ。婚約者よ。」
「一井と申します。お噂はかねがね。」