スノー アンド アプリコット
「…婚約者って、どんな奴?」
ビールを受け取りながら、誠子ママに尋ねた。
「さぁ…アタシは会ったことないけど、大手の企業にお勤めの、カタい感じで、優しい方だったみたいよ。惚れられて惚れられて、杏奈ちゃんも文句ないみたいだったけど。」
「………」
畜生、こいつ。
あの男はやっぱり偽物か。ふざけた真似しやがって。
俺は数時間前に会ったばかりの、いけすかない色男を思い出す。
人を食った態度で、不愉快な奴だった。杏奈が結婚相手に選ぶには、違和感のある男だと思ったが、さもありなんだ。
どうせ、ずっと俺にやらせていた役割を都合良く押しつけたってところだろう。
「ねーえユキくん、こんな性悪女、一途に想ってるなんてぇ、不毛よ、不毛。」
ジト目のキララに言われなくても自分でもそう思う。
「この女の爛れた性生活、アタシ受け付けないわ!」
俺もだ。
いちいち心の中で同意する。
だけど、理屈じゃないんだ。
こんな女、真っ平だと思いながら、俺はずっと、杏奈が好きだ。
「うっせえゴリラ。」
「きゃー、今日もヒドーイ!」
「…で? なんでダメになったって? そいつとの結婚は。」
「さあねぇ…ご両親がどうとか、言ってたけど。詳しくは、全然。」
「ああ…」
俺は嘆息した。両親、というワードだけで、大方の予想はついた。
「…ねえ、杏奈ちゃんって。」
そんな俺に、誠子ママは遠慮がちに付け睫毛を瞬かせた。
「複雑な家庭の事情でもあるの?」
「…複雑っていうか…」
「あ、言っちゃまずければ、いいのよ。ただ、ご両親のことは毛嫌いしてるみたいだし、ご実家は地方なんでしょ? なのに、盆暮れ正月もここで飲んでるし、気になっちゃって。」
誠子ママは興味本位でなく、本当に心配している。こんなに杏奈を心配してくれる人も珍しい。
いつも杏奈が酔っぱらって俺を迎えに来させるたび、こうして情報提供をしてくれる借りもある。
この人になら、話してもいいか。
俺はビールを一口飲んで喉を潤してから、昔話を始めた。