スノー アンド アプリコット
その頃、俺はもう高等部に上がっていて。
杏奈は卒業を間近に控えていた。
日々は相変わらずだった。
通う校舎が同じになったから、ますます俺はいいように使われていた。
俺が3年の教室に行ったり、杏奈が1年の教室に来たり。
人気者の俺と、周囲を引っ掻き回す杏奈が頻繁に行ったり来たりするから、学年中を巻き込んで、高等部は全体的に活気づき、なんだか賑やかだった。
杏奈を疎む一部の女子も根強く残ってはいたが、大半は杏奈を敵に回す恐ろしさを思い知っているので、表立って衝突することはなかった。
その頃には俺も、杏奈の気を引きたくて、杏奈に負けじとあっちこっちの女の子の告白を受けて付き合ったりしていた。
それは杏奈にはなんの効果もなく、杏奈の存在に耐えきれない彼女たちに、そのうち振られるばかりだった。
そんな日々で。
事件だらけといえば事件だらけだったし、平穏といえば平穏だった。
センター試験が目前に迫り、受験一色の3年生たちを眺めながら、
「杏奈さん、もういなくなっちゃうんだよなぁ」なんて寂しそうにぼやく友達もいた。
だけど俺は、杏奈が学園からいなくなろうと、これからも度々杏奈にこき使われ、杏奈の部屋に上がり込むのだと。
信じて疑っていなかった。
ある朝、杏奈はいつもの通学路に現れなかった。
携帯に電話をかけても、おかけになった電話番号は現在使われておりません、というアナウンスが流れるだけだった。
学校にもいなかった。
家に行ってインターフォンを鳴らしても、誰も出なかった。
いくら杏奈が気まぐれとはいえ、そんなことが3日も続くと、俺は異変を感じないわけにはいかなかった。
時期が時期だけに、学園側はすぐには発表しなかった。
だけど、情報とはまことしやかに流れるものだ。
――杏奈の父親の町工場が潰れて、一家で夜逃げした、ということらしかった。