スノー アンド アプリコット
――それからは、ご想像の通りだ。
俺が持ち込んだ蕎麦を杏奈の部屋で茹で、食べ終わる頃には杏奈も落ち着いて。
「早くお茶! 気が利かないわねー!」などと命令するくらいには調子を戻していた。
再会を果たしたからって気分が高揚してキスなんて流れにはならなかった。
俺はまた、なし崩し的に下僕に成り下がった。
高校生だった頃と変わらないと苛立つこともあったが、月日が経ったぶんオトナな内容のものも増えた。
それは例えば、ストーカーを撃退するだとか、しつこい男の前で彼氏のフリをするだとか、酔いつぶれた彼女を迎えに行くだとか。
そんなようなことだった。
杏奈の男癖の悪さはもう病気みたいなものだった。
壁の薄いアパートの隣の部屋で、見知らぬ男とコトを始めようとしたことも何度もある。
初めてその声が筒抜けで聞こえてきた時は発狂するかと思った。
そんなことが起きると必ず、壁を叩きまくってやめさせた。それでもやめない時は部屋に乗り込み、罵倒しまくった。
そんな大学生活を送り、杏奈は区役所に就職した。
俺のことは相変わらず相手にしない。
今まで付き合った男たちを思い返すと、そういえば皆、同い年か、年上なのだ。
「ガキはお呼びじゃないのよ。」杏奈はそう言って俺をあしらう。
だけど、ずっと一緒にいる。
杏奈が他の男にフラフラしている間に、俺は一人前の医者になるつもりだった。
俺はあと2年で大学を卒業し、研修医を2年、それからやっと医者としてのキャリアをスタートすることができる。
それは確かにまだ長い道のりだ。
だけど、杏奈の生活ぶりを見ていたら、なんとか間に合いそうな気がしていた。
杏奈はどう考えたって結婚向きの女じゃない。
大丈夫だ。杏奈には俺しかいない――…