スノー アンド アプリコット
◆◆◆
「なんであたしがまたあんたの部屋に連れ込まれてんのか説明しろーーー!!!」
ボフッ!
一瞬の窒息で即座に目が覚めた。生存反応だ。俺はまた枕を顔に投げつけられたらしい。
「てめえが泥酔して呼びつけたくせに意識不明になってるから運んでやったんだろうがーーー!!!」
いつも朝から口と脳がフル回転できるのは、間違いなく杏奈と怒鳴り合う朝が多すぎるせいだと思う。
「………」
杏奈は眉をひそめて沈黙する。うっすら思い出したらしい。
「ああ…」
芋づる式に婚約の破談も思い出したのだろう。杏奈は不機嫌に大きなため息をついた。
「……で、なんであんたまで一緒にベッドで寝てんのよ! 床で寝なさいよ!!」
…キレ直してきやがった。
「もういいだろ一緒に寝たって今更!」
「良くないわよ図々しい!」
「図々しいのはどっちだ! 俺の部屋だぞ!!」
「またあんなことしたら殺してやるわよ!」
「襲われたくなきゃ服を着ろー!!」
なんでこうなる。
俺が無理矢理始めたとはいえ、一度はあんなにも激しく愛し合ったはずなのに何故、甘い朝を迎えることがない?
他の女に砂糖みたいな言葉をかけるのはあんなに簡単なのに。
「…今何時?!」
杏奈が突然、はっとして青ざめた。
「服着ろって。」
「やば!! 遅刻!! あたしのパーフェクトな勤務態度が!」
「…着ないなら襲うぞ。」
「ユキ朝ご飯!」
「聞けよ!!」
杏奈はタオルケットを蹴散らしてベッドを飛び降り、昨日も自主的に脱ぎ散らかした服を拾い出した。
「…お前の勤務態度がパーフェクトっていうのは信じがたいが、ちなみに今日は土曜だぞ。」
「………」
途端、杏奈は床に手をついてがっくりと頭を垂れた。
「それを早く言いなさいよ…」
もう大声を出す元気もないらしい。
「もうやだ。ほんとにやだ。うんざりよ。」
愚痴とも悪態ともつかぬ口調で言って、杏奈はのろのろと服を着だした。