スノー アンド アプリコット
「…お前が好きだよ。」
そんな声で、そんなこと言って。
「好きだ。」
ユキがあたしの顔を髪の毛と一緒に両手で挟み込んで言う。
あたしの涙を唇で辿って、瞼にくちづけて。
「俺にしとけって。」
そんな切ない顔して言ったからって。
あたしは。
「お前があの男に望んだこと、全部やってやるから。」
あたしが望んだこと。
普通の結婚をすること。
普通の親になること。
普通の家庭を築くこと。
「そんなことっ…」
あんたに。
できるわけが…
「だからあんな奴のことは忘れろ。」
お坊ちゃまで、生まれた時から勝ち組で、苦労なんか夢の産物で、お金を稼ぐ父親と上品に笑っている母親が将来を用意して、そこに向かっていればいいだけの。
あんたなんかが。
「嫌っ…」
なんで、誰よりもあたしをわかっているようなことを、言うの。
なんで、そんなキスをするの。
「やめて…」
「やめない。」
ユキは熱っぽく囁いて、キスを続ける。
舌を深く絡め取られてあたしは眩暈がした。
あの時みたいに、ユキは無理矢理あたしを抱き込もうとしているわけじゃなかった。
甘い痺れを呼ぶ唇は、確かにユキの欲望を伝えてきたけれど、同時に飼い主を慰める犬を思い起こさせた。
泣かないで、好きだから、そう言われている気がした。
そんなふうに。
あたしをひとりでは生きてはいけないと、感じさせないで。
あんたがいないと、なんて、そんなーー…
キスはどんどん切なく、激しくなって、ユキがあたし身体をまさぐり始めた。
あまりの心地よさに、あたしは耐え切れずに声を漏らす。
たった一晩抱いただけで、あたしの身体を知り尽くしたかのように、ユキはあたしを高めていく。
ーー違う、あたしが、求められたいと、願っているから?
つま先が浮いて、軽々と腰を持ち上げられた。
もう、なんでもいいーー
あたしはユキを受け入れ、その律動に全部を預けた。