スノー アンド アプリコット
「何がダメなのよ。ユキくんはそりゃ今は学生だけど、申し分のない男じゃない。」
「ちょっと異常だけどね。」
誠子ママが言うと、一井が茶々を入れた。
「そうなのよ! あら、一井サンわかってるう〜!」
キララが目をハートにして言った。
「怖いわよねー! 東京に戻ってきたあんたのこと、ホストになって探したらしいわよ。」
「はぁ? ホスト?」
「愛ゆえだなあ。涙ぐましいじゃない。」
あたしがあんぐりと口を開けるのをよそに、一井は驚きもせずからかうような口調だ。察しがついていたのかもしれない。
…ホストって、どういうことかしら。
明らかに手練ているセックスといい、こないだの大倉への発言といい、最近のユキはちょっとあたしの想定を越えてきている。
何でも言うことを聞くだけのお坊ちゃんだったのに、あたしと離れていた、たかだか2年あまりの間によっぽど何かあったんだろうか。
そのわりに、今はおとなしく親の跡を継ぐべく、せっせと大学へ通っている。
「いいじゃないか、全部彼に任せれば。そんなどうしようもない婚約者なんかよりさ。」
「大倉のことなんかもうどうだっていいのよ。スッキリサッパリ忘れ去ったわよ。」
「うわぁ、すごいね。ユキくんの大勝利だ。頑張ったなあ、彼。」
「頑張った……?」
「頑張っただろ? 自分を下僕としてしか見ない我儘放題な女をさ、追いかけて、隣に住んで、なんとか抱いて、婚約者を追い払って。」
「人生かかっちゃってるものねえ。ほとんど勘当状態らしいわよ、今。」
「頭が下がるよね。僕は一人の女のためにそこまでできないな。」
勘当って。
何それ?
こんなところに住んでる場合じゃないんじゃないの?
「何やってんの、あいつ? あたしそんなこと頼んでないわよ。」
「そりゃそうだろ。だから彼も、君に何も言わないんだろ。」
一井が涼しい顔をして言う。
「わかってあげなさいよ。」
誠子ママが化粧に似合わない、なんだか慈悲深い女神みたいな顔をして言った。なんでそんな顔をされるのかわからないし、なんでそんなことを言われるのかわからない。