スノー アンド アプリコット

どうして?

あたしの声が、あたしの頭の中で誠子ママの問いを繰り返した。

結婚は。
あたしの人生の目標だった。

厳密に言えば、両親のことを問われない、…あたしの生い立ちを責められることのない、平凡な家庭で生まれ育った平凡な男との、結婚。
それを達成すれば、あたしは幸せになれるのだと思っていた。別に、好きな男とじゃなくても。

ーーそれは、どうして?

「ねぇ。それは、寂しいからでしょ?」

誠子ママが静かに言った。

「依存するのが怖くても、一人は嫌だからでしょ?」

あたしはいつものように、即座に反論することができなかった。

「ーーあたしをっ…」

声が掠れた。

「弱い人間みたいに言わないで!」

…情けない。
これじゃ肯定してるのと同じだ。
誰に指摘されなくても、自分でわかった。あたしは動揺している。きっと、図星だからだ。
だけど認めたくなんかない。

「…皆そうさ。」

沈黙が重くなる前に、一井がさらりと言った。
世間話みたいに、いつもの調子だった。

「そんなことは弱い人間が思うことでもないし、何も恥ずかしいことじゃないし、皆そうさ。ただ杏奈ちゃんはきっと、それを認めたらここまで一人でやってこれなかったから、必死に目を背けてきたんだな。…でも、もういいじゃないか、彼が居るんだから。」

あたしの頭をぽん、と叩いて、一井は微笑んだ。

「今までよく頑張ったよ、一人で。」

ーー泣くな、あたし。
馬鹿みたいだ。
安い人生を、労われて。

「……っ、おかわり!」

誠子ママが目尻を下げて、優しく笑った。

「あんたのことを、今初めて可愛いと思ったわ。」

キララがあたしが突き出したグラスを受け取りながら言った。

「あたしはずっと可愛いわよ。」
「そうだなあ、杏奈ちゃん初めからずっと可愛い。彼さえいなければ僕が…」
「キーーーッ、どいつもこいつも杏奈杏奈って…」
「当たり前でしょ。」
「アンタ、ほんっと腹立つ女ね!」
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