スノー アンド アプリコット
◆◆◆
閑散とした深夜のカフェで一人でハーブティーを飲んでいる若い女なんか一人しかいなくて、あたしはすんなり清華を見つけた。
身に着けているもの一つ一つが高そうで、明らかに浮いていた。
「久しぶり、だね、杏奈ちゃん。」
「久しぶり。」
清華が気弱な笑みを浮かべて言った。
そう、思い出した。特に美人とかではないけど、他人の顔色をいつも読みながら相手を気持ちよくさせる会話をするので、あの学園でも結構モテていた。
「こんなすぐ着くなんて。雪臣くんの部屋に住んでるって、本当なんだ…」
「ていうか、あいつが、隣に越してきたんだけど。」
「…そう。そっか…相変わらず、綺麗だね、杏奈ちゃんは…」
昔も似たようなことを言って、あたしに妙な憧れを抱いていて懐いてきていたけど、別に今、旧交を温めたいとか、そんな感じでもなかった。
「で、何?」
苛立った口調で言ったつもりはなかったのに、清華はびくっと肩を震わせた。
「うん、呼び出してごめんね。あの…」
あの、と言ったきり、また言葉を探している。
あたしが来るまでにそれくらい考えられたんじゃないの?
今度は本当にイラッとした。
「あのね。単刀直入に、言うね。」
もう既に単刀直入でもない。
続きを聞く為に、それを言うのはやめておいた。
「……雪臣くんをね。私に…私に、譲ってほしいの。」
…………は?
「アン!!」
なんとか、キララを振りほどいたのか。
Tシャツの襟口が伸びて、髪も乱れ、頬にべったりと口紅をつけたユキが飛び込んできた。
「清華の話は聞かなくていい、帰るぞ、アン。」
「…もう聞いたけど。」
一人しかいない、やる気のない店員はまだあたしのところに水を運んできていないはずなのに、あたしの目の前には水の入ったグラスと、空になったコーヒーカップが置いてあった。
ユキはカフェではいつも、コーヒーを飲む。
ああ、そういうこと。