スノー アンド アプリコット

「適当に座って。」

と言っても、コタツに入るしかなくて、父親はそろそろとコタツに足を入れた。

厚かましい。苛立った。だがそれどころではない。

「で、一体いくら要るんですか?」

とにかく、早くこいつを追い払わないと。
心を入れ替えて謝罪をしに来たならともかく、金の無心なんて、杏奈が一体どんな顔をするのか、想像したくもなかった。

「東条くん…杏奈は…」
「いくらですか。」
「僕は本当に、あの子には申し訳ないことをしたと思っているんだ…だけど…」
「あなたの言い訳なんか聞いてる暇ないんですよ!」

俺はコタツの机に、バン!! と拳を振り下ろした。
父親はビクッと肩を震わせて、恐る恐る俺を見た。
杏奈の容姿は母親譲りだ。小汚いこんなおっさんが杏奈の父親だとは、昔会っていなければわからなかっただろう。

「...いいから言ってください。いくらですか。」
「…200万……」

蚊の鳴くような声だった。
たったそれだけの金額の為に、この人は。
ーー杏奈は。

「…200万あれば、あなたは帰るんですね。」

畜生、そんな金額、現金で持っているわけがない。
コンビニでそんなに引き落とせるだろうか?
無理だったら銀行に行かないと。口座を分ければなんとか用意できるだろう。夜間に開いているところはどこだ? すぐに調べないと。

俺は腰を浮かしながらせわしなく言った。

「ここで待っていてください。タクシーを呼びますから、来たら先に乗っていて。帰りの新幹線代はあるんですか?」
「……しばらくは、杏奈のところに泊めてもらおうと…」
「あんた本当にクズだな!!」

腹の底から怒鳴った。いや、だめだ。罵倒している場合じゃない。とにかく金だ。金さえ渡せばこの父親は去る。

「新幹線代も下ろしてきますから、とっとと帰って下さい! ああそうだ、一応ここにあんたの今の住所書いておいて。」

言い捨てると、俺は部屋を飛びだした。

深夜の町を駆けずり回って、なんとか手元に金を集め、封筒に詰めてまた戻る頃には汗だくになっていた。
アパートの下にはタクシーが着いている。
だが中に父親はいなかった。

俺は再び自分の部屋に飛び込んだ。

「さっさとタクシーに…」
「ユキ。」

遅かった。
玄関に、杏奈の背があった。

「…どういうこと?」

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