スノー アンド アプリコット
勝手なことするなと怒鳴られるかとも思ったが、杏奈は嘆息して笑っただけだった。
「200万ちょっと。…言っとくけど、親の金じゃないぞ。自分で稼いだ金だ。」
「ああ…」
杏奈は疲れ切ったように頷いた。
「…そうでしょうね。あんたは。そうよね…」
そう言って壁に力なく寄っかかった。
こんな時くらい、俺に寄っかかればいいのに。
「入れよ。あったかいお茶でも飲んで落ち着け。」
杏奈はゆっくりと首を振った。
片手で顔を覆うようにして。
「ユキ…」
「なんだよ。」
「ありがとう。」
「ーーー……」
ふらりと壁から身体を起こして、杏奈は部屋を出て行こうとした。
その腕を思わず掴んだ。
ありがとう、なんて。
初めてーー……
「こっち、泊まってけって。」
縋るような言い方になってしまった。
こんなに、弱っている。当たり前だ。
それなのに、杏奈は頑なに首を振った。
「頼むから、一人にして。」
それは俺以上に、懇願するような口調だった。
俺は力なくその細い腕を取り落とした。
「おやすみ。」
杏奈は目を伏せたまま、部屋を出て行った。
ーーひとりになりたい、という気持ちも、痛いほどわかった。
そばに居てやりたい、というのは、俺のエゴなのか、とも思って。
こんなに足掻いてきても、俺はまだ無力だ…
悔しい思いを抱えて、それでももうくたくただった。
俺はそのままベッドに倒れ込んで、そのまま眠りこけた。