興味があるなら恋をしよう−Ⅰ−
「藍原〜、これ、坂本が忘れ物だって、持って来たぞ」

「あ、坂本さんだったんですね。有難うございました」

浴槽を洗っていたから、慌てて出ようとしたら、課長がいいって、代わりに出てくれた。
課長自身もうちに来た時、途中になるから続けていいよと言ってくれて、実際私は待たせたまま続けていたのだ。

何だろう、忘れ物?
受け取ってチラッと隙間から覗いた。ん?開けた。
……キャー、大変。ガサガサと慌てて捲き込み、閉じた。……忘れてたぁ、…ストッキングは一番に片付けておこうと思ってたのに。あー…。
ガサガサとさらに閉じて洗濯機の場所へと持って行った。

……嫌だー、もぉー。こんな物…。
…見られてないわよね?…。

「す、すみませんでした、ズッとお待たせしてしまって。課長、珈琲入れますね。ブラックでいいですよね?」

自然に、自然によ。

「ん?ああ、気を遣うな?顔を見に寄っただけだから。玄関先で帰っても良かったくらいだ」

「せっかくわざわざ寄って頂いたのに、珈琲くらいは入れさせてください。
これではお礼になりませんけど。あ、でもよく考えたらそうですよね、風邪、移るといけないから」

課長は見舞いだと言って、フルーツやスイーツを沢山持って来てくれていた。

「まあ大丈夫だろ。それより身体、大丈夫なのか?さっきも風呂掃除してたけど、あまり一気に動いたら熱が出るぞ?」

あ、同じ事言ってる。…何だか。

「フフフ」

「ん?どうした?」

「あ、いえ、何でもありません。ちょっと…思い出して。はい…課長」

「藍原…」

珈琲をテーブルに置こうとしたところで課長が立ち上がった。

「こんな事したら、困らせてしまうか…」

後ろから軽く肩を抱きしめられた。あ、…課長。
辛うじて零れる前にカップは置けた。

「…藍原……子供だろ?今日一日、藍原の居ない席ばかり眺めていた…。気が付いたらズッとだ。確認印もまともに押せずにだ。…情けないだろ?俺の中、藍原で一杯になって来たんだ…」

向き直されて、正面から深く抱きしめられた。

「…課長。風邪、移っちゃいます…」

「ん…大丈夫だ」

課長…。

「電話を…、メールの後で電話をくれましたよね?」

「ああ、あれは…」

「狡いですよ?ドキドキしました。あれは…あんなのは狡いです…」

「…藍原」

片手を後頭部に当てると 顔を胸にしっかりと押し付けられた。
課長の動悸がハッキリ解った。横向きに顔をずらした。
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