興味があるなら恋をしよう−Ⅰ−
駅から課長の部屋まで…。
以前走った道を逆から並んで歩くなんて。


エレベーターに一緒に乗った。
…また二人で乗る場面に出くわすなんて。
思いもしなかった。


「ほら、遠慮も緊張もするな?どうぞ。入って」

「はい、失礼します」

玄関を開けると促された。あ…。風が…。
窓から気持ちいい風が吹き込んでいた。

「…いい感じの風ですね」

風が髪を揺らした。

「ハハッ。だろ?
物騒は物騒かも知れないけど、よく開けっ放しにするんだ。
どうだ?嘘も隠しも無く2LDKだろ?部屋、見て見るか?」

「え?あ、はい、いいえ。…大丈夫です」

確かに…部屋の事、聞いた…。馬鹿だな…。


「珈琲でいいか?
あ、今日はブラックでいいか?」

「はい。ブラックがいいです。すみません」

「一々謝るな。気を遣うなって言ってるだろ?」

そんな事言われても、課長の部屋って事もあるし…。

「すみません。あ、…。でも、どうしても課長ですから。珈琲を入れてもらうなんて事も恐れ多くて…すみません。それにいつも奢ってもらってますし。すみません。
あ、すみません」

これでは延々と謝り続けそうだ。

「そんな事あるか…。今はプライベートじゃないか。仕事を離れたら、そんなに恐縮するな。
はい、入れたぞ。
こっちに座ろう」

「はい。…有り難うございます」

いいのかな、一緒にソファーに座って。
…あ、…いい風…。
そんな戸惑いも、ベランダからサワサワとそよぐ風が気持ちを軽やかにしてくれた。

「あ、そうだ」

一旦腰を降ろした課長は、またキッチンに戻って行った。

「藍原〜。
藍原はこんなの食べるか?」

課長が冷蔵庫から何かを取り出して持って来た。

フルーツパフェ?のようでプリンも?ティラミスも?
縦に長いグラスに、何層にも分かれて色々と積み重なっていた。
一番上にあるカットされた沢山の苺が瑞々しくてとても美味しそうに見えた。

「うわ…、綺麗で、凄く美味しそうですね」

コンビニの物ではなさそうだ。よく利用する私が知らないのだから。
どう見てもお高い物のように見えた。わざわざ買ってくれたんだ。

「ああ、嫌いじゃなかったら食べよう」

「はい、嫌いじゃないです!」

「ハハハ。良かった、…いつもの藍原だな」

え…あ、私は…、食べ物を見るとつい。これでは、機嫌を取られた子供と変わらない。
こんな時なのに…情けない…。
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