夢を忘れた眠り姫
夫婦はそう主張して、養護施設に父を託したのだった。

そして一度も面会に訪れることはなかったらしい。

父は身勝手な大人達によって、この世に生を受けてわずか6年の間に、そのような数々の修羅場を体験させられたのだ。

その経緯は施設の院長先生が教えてくれたらしく、父いわく「まだ小さかったし、自分自身は当時の事はあまりよく覚えてない」とのことだけれど、二回目に捨てられた時はもう物心はついていただろうし、本当はその時の哀しみはしっかりと記憶されていたのではないかと思う。

だけどそこを追求するような残酷な真似はできなかった。

親には恵まれなかったけれど施設の子達とは本当の兄弟のように打ち解け、先生方にも良くしてもらって、父はそこで幸せに伸び伸びと育った。

そして18歳で施設を巣立ち、奨学金制度を利用して都内の大学に進学したのである。

言葉にするとあっけなく終わるけど、両親のいない子が大学進学までたどり着くのは並大抵の苦労ではなかった筈。

父はかなりの頑張り屋さんで、努力の人なのだと思う。

大学卒業後はそのまま都内の会計事務所に就職したのだけれど、ある事情からそこを辞めて、その頃すでに付き合っていた母と共に群馬に帰った。

なるべく都会から離れたかったみたいで…。

アパートを借り、そこで二人の新生活をスタートさせたのである。

そのタイミングで入籍し、数年後に私が生まれたのだった。
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