夢を忘れた眠り姫
帰郷を機に再就職した先は、最初の勤務先と比べるとだいぶ規模は小さいけれど、やはり会計事務所だった。

総勢10名のアットホームなところ。

なかなか優秀な大学を出て、都内で就職していたというのに、「なぜそっちを辞めてこんな田舎に?」と、Uターンした事を報告しに行った際に施設の先生に、そして同僚やそこの所長さんにまで驚かれたらしいけど「人間関係でちょっと躓いてしまって…」とだけ言って後はお茶を濁したらしい。

まぁ、その言葉自体はズバリ的を得ているのだけど。

しかし田舎のこじんまりとした事務所とはいえ、専門の知識を持つエキスパートが集う場所である事に変わりはなく。

お給料は申し分なかったし福利厚生はしっかりしているし、アパートから車で10分の距離だから通勤は楽だし転勤させられる心配もないし、父としては何ら不満はなかったようだ。


「やはり資格を取っておいたのは正解だった。それがなかったらどうなっていたことか」というのが父の口癖だった。

そして「お母さんも働いて家計を助けてくれたしな。ホントありがたい」とも。

私を身籠ってから数年の間だけは家にいたみたいだけど、それ以外の期間は母もずっとパートの職に就いていたのだ。

二馬力で働いた甲斐あって、奨学金は無事に返し終えたし、さらに、マイホームまで手に入れる事ができた。
< 150 / 277 >

この作品をシェア

pagetop