夢を忘れた眠り姫
「か、彼の力を借りないと、とてもじゃないけど私一人では、対処できる自信がなくて…」

「落ち着いて」


すると貴志さんが、私の左肩にそっと手を置いた。


「今、ここで無理して説明しようとしてくれなくても良いから」


その手の温もりと穏やかな声を、触覚と聴覚が感知した瞬間。

嘘みたいにすーっと心が凪いで行き、途端に体の震えが止まる。


「とにかく早いとこマンションに帰ろう。彼…。内藤さんを迎い入れる準備をしておかないとな」

「……はい」


そのまま私達は足早に歩き出した。

数分後部屋にたどり着き、一旦お互いの私室に入って荷物や上着を所定の位置に片付け、ラフな格好に着替えてからキッチンへと集った。


「何か軽く口に入れておこうか」


二人で手分けしてお茶の準備をし、それが完了した所で貴志さんがそう提案した。

なのでリビングにて先にコーヒーを飲みながらお茶菓子をつまみ、彼の到着を待つことにした。

ちなみにソファーは私に譲り、貴志さんはそこから見て左手の位置のラグの上に胡座をかいて座っている。


「さて、あとは内藤さんが来るのを待つばかりだな」


コーヒーを一口啜り、「ふー、」と深く息を吐いたあと、貴志さんはそう呟いた。


「あの…」


私は視線と体の向きを彼に合わせつつ言葉を発する。


「べんさんが到着する前に、ある程度説明をしておきたいのですが」

「うん」
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