春うらら
「真面目に、速見さんは変わった人ですよね~……」

ぶつくさ言っていたら、橋元さんは爆笑を押さえて咳払いした。

「どーでもいいけど、お前ら、コーヒー買って社に戻るぞ」

そう言って歩きだした彼に、速見さんは無言でぽてぽてとついていく。

それを見送ってから、桜を見上げた。

北海道の桜は咲くのが遅いくせに、散るのは一緒であっという間だからなぁ。

あの桜……綺麗に花びらだけが見える感じって好きなのに。

北海道の桜って、花と葉が一緒で、何だか綺麗な感じがあまりしないんだよねー。

樹の種類にもよるけど、これは花だけで綺麗だ。

昨日の吹雪にもよく耐えたね。

「さすがにこんな街中じゃ、あれに登るなんて出来ないだろうけど、登ったら景色綺麗だろうなぁ」

それが例え、排気ガスたくさんな公園の木であろうと……。

「登ったら毛虫がうじゃうじゃいて、メルヘンにはならねぇよ」

橋元さんの現実的な言葉が聞こえて、ふたりが立ち止まって振り返っていたことに気がついた。

「あ。すみません。コーヒー買いにいきましょう、コーヒー」

慌ててふたりについて行き、近くのコンビニで人数分の缶コーヒーを袋にいれてもらう。

それを橋元さんから預かった一万円で支払って、荷物持ちは橋元さんと速見さん。

……なんか申し訳ないね。

仕事の話をし始めた彼らの会話を耳に入れながら、歩道から見える公園の桜を振り返り振り返り見る。

普段は特に花なんて“好き”って訳じゃないけど、やっぱり桜ってどこか乙女スイッチはいるよね。

可愛いって言うか綺麗でさ。

桜をモチーフにしたピアスとかどうだろう。
ありきたりかなぁ。でも、時期ものになっちゃうから、あまり店舗向きじゃないかなぁ。

こんどの地下歩行空間のフリマが……いつだったっけ?

そんなことを思いながら、会社に戻ると、皆さんにコーヒーを配って、いつもと変わりない雑務に追われる。
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