春うらら
「速見さんは、もう、お仕事上がったんですか?」

「まだ」

まだなのか。なのに、サボっていてもいいんですか?

「……その。締め切りとか大丈夫なんですか?」

「色指定が来ない」

ああ、先方にこだわりの指定色があるなら、伺わないといけませんよねー。

「どんなの描いてるんですか?」

「色々」

うん……ごめん。惨敗です。

眉を下げて口を閉じた。

無理ですわー。会話になりゃしませんわー。この人はどうすりゃいいんでしょうか?

「あの……速見さん。会話とか、する気は無いんですか?」

「俺は口下手って言われる」

いやぁ。口下手って言うか、何て言うかさー。

黄昏そうになったら、楽しそうな声が降ってきた。

「桜。綺麗だよ」

前を指差す速見さんにつられてそっちを向いて、咲いている薄紅の花にあんぐりと口を開ける。

目の前には、思っていたよりも満開の桜。

綺麗! めっちゃ綺麗!

「こんなに咲いてるなんて思いませんでした!」

思わず走り出そうとして、ぐんと引き留められた身体に、手を掴まれたままなのを思い出す。

「あの……」

「走ると転ぶよ?」

「私は子供じゃない……」

「いくつ?」

いくつ? ああ、年齢?

「23歳です!」

「あ、そう……」

驚いたような表情の変化に、こちらの方が首を傾げた。
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