春うらら
「普通こういった場合、人の腰にいきなりくくりつけないです!」

「うん?」

慌てて手を止めると、速見さんは困ったような顔をするから……私が困る!

「こんな時は、パーカーをさりげなくベンチに置くのが普通です! まかり間違っても、女の子の腰になにをするんですか!」

「女の子?」

そこに食いつかないでください!

「では女子で!」

「ああ。うん……」

そう呟いて、彼はおもむろにパーカーをたたみ始めると、たたんだ状態でベンチに置いた。

うん。なんだろうか。速見さんは私にコレを広げて座れと?

ベンチに座って、どうぞとパーカーを指し示す速見さんに肩を落として見せる。

もう、何も言わないでおこう。ますますおかしな事になりそうだ。

しょうがないから、たたんだパーカーの上に座ると、速見さんは微笑んで缶コーヒーを開けた。

「速見さんって不思議な人ですね」

「……それはよく言われる」

よく言われちゃうんだ。こんだけマイペースだと、言われても仕方ないよね。

でも私は派遣社員だし、派遣期間が終われば、なんの接点もなくなるわけだから、そんなにガッツリ関わらなくても……。

「目に染みる……」

隣りを見たら、目を細めて桜を見上げている速見さん。

同じように視線を上げて、咲き誇る花弁に微笑んだ。

……空は冬よりも近く感じるような濃い色合いのブルー。
そこに赤みがかった桜の枝と、くっきりと白い花。

そのコントラストがなんとも絶妙。

まぁ、寒いのは少し風があるから。早く暖かくならないかな~。

「今日は晴天ですねー」

「うん」

「風がもう少しあればハラハラと散ってくれて、きっと綺麗なのに。でも、これはこれで綺麗ですよねー」

「うん」

「……速見さんは“うん”しか言いませんね」

「口下手だから」

だから! 一言で終わらせるんじゃない!

キッと彼を見ると、何故か速見さんはベンチに横座りして、私を見ていた。

……あ、あれ?

目が合うとニコリと微笑まれる。
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