ヘタレな野獣
あんな理不尽な要求をしてきた部長、しいては、この建物から逃げたかった。
自分が導き出した返答を棚に上げてでも、一刻も早く。

「ありがとうございます、田崎さん、でも、もう大丈夫ですので」

ニッコリ笑うヨレヨレ君、ホント調子が狂っちゃう。



武田君の回した車に乗り込む。


「あっ、武田君、そこの角曲がった所で車止めてくれる?」

暫く走った所で私が言うと、武田君は眉間に皺を寄せはしたが、黙っていう事を聞き入れてくれた。

「ちょっと待ってて?すぐ戻るから」
私はそう言って車外に出て、その足でスィーツ店に向かった。

二課の面々を思い浮かべながらオーダーする。

あっ、ヨレヨレ君って甘い物、大丈夫かな、聞いておけば良かった、好みはわからないけど、買わない訳にいかない、人数分買って車に戻る。


車内は何だか不穏な空気。

「・・・どうかしたの?」
「「・・・・・」」

返事すら返ってこない。
「なぁに?二人し・・「車、出していいっすか!」
遮るように言葉を被せて、武田君の声は不機嫌極まりないトーンで、私が答える前に急発進させた。

「きゃっ!」
勢いあまってリヤシートに深く張り付く。

「こらっ武田!
危ないじゃないの!人乗せてんだから乱暴に運転しないの!」

なんて怒ってみても何の反応も無い2人。

結局会社まで、車内に会話は無く、武田君が付けたFMの音だけが響いていた。


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