ヘタレな野獣
「ただいま」

微妙な雰囲気のまま事務所に入る。

「おかえりなさい、お疲れ様でした」

不穏な空気の私達、特に気にとめる事も無く、当たり障りのない返事が返ってくる。


えっと、田之上さんは・・・


「ねぇ、田之上さんは?」
「あっ、社食っす」

この春配属されたばかりの一年生が教えてくれた。

しかたない、私はケーキボックスを片手に給湯室に向かった。


冷蔵庫を開け箱が入るスペースを確保して収納する。

「よしっ」
冷蔵庫を閉めて立ち上がると、いきなり背後から肩を掴まれた。

ビクッと体が跳ねる。

「よう、田崎、久し振りじゃん」

下柳だ。
驚かされて、私は文句を言ってやろうと振り向こうとしたけど、肩を強く掴まれて動く事が出来ない。

「はっ、話してよ・・・」
「・・・」
「離しなさいよ!」「お前ムカつくんだよ!」

私の肩を掴んでいた下柳の両手が首筋に動いた。

ヒッ・・・


「お前さぁ、目障りなんだよ、女の癖に、でしゃばんじゃねぇよ、目立つんじゃねぇ、俺がさぁ、霞むじゃねぇか・・・」

そう言って、首を緩く締め上げながら、何と私の頬を舐めあげた。

ふふふっ・・・いやらしい笑い声を上げていた。

「メスの匂い、プンプンさせてよぉ、いいかぁ?覚えとけよ?お前なんかいつでもヤレんだからな!ヘッヘッヘッ」

また頬を舐め上げる。
気持ち悪い・・・

邪魔したな、下柳はそう言って、一度首をきつく締め上げて給湯室から出て行った。




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