ヘタレな野獣
「山下部長と、会うんですか?」

話がいきなりぶっ飛んだ。

「は?」

驚いた。

「武田君が心配していましたよ」

淡々と喋りながら、出された料理を口に運ぶこの男・・・


「田崎さん、試されてるんじゃありませんか?」
えっ?試されてる?

「今時、担当者とそんな関係結んだからって、仕事貰える程、甘く無いですよ・・・」
「・・・・・」
「ましてや、相手は業界では名の知れた大手、そんな危ない橋、誰が渡ります?」
「・・・・・」

何が言いたいの?
ってか、この人、ほんにあのヨレヨレ君なの?
人が変わった様に感じるのは・・一体・・・

「言いたい事があれば、ハッキリ言えば?」

私は、回りくどい言い方をされて、キレ気味にキツい言い方をしたけど、彼は全く意に介さない様子で、こう続けた。

「・・・大方の予想、僕の名前でも出されて、引くに引けなくなった、とか?」

っ!!!

この男・・・

「どうですか?近からず遠からずってとこでしょうか」
「だって!
だって貴方、このひと月の間に結果を出さないと!」

そこまで言って、口を噤んだ。


グラスに半分程残っているビールをグビッと流し込む。

「本当にいける口なんですね」

空いたグラスに、彼はビールを注ぐ。


「・・・どうして、どうして僕の為にそこまでするんですか」

グラスの縁にビールの泡が盛り上がる。溢れそうで零れない。


「いっ、言っとくけど、私はそんな安い女じゃ無いわよ。
今回の事もあくまでビジネス、仕事の一環よ?雨宮、課長が、何を想像しているのか知らないけど、私は食事に誘われただけですから!」

心とは裏腹に、そんな言葉が口を突いて出て来る。

「じゃ、僕も同行すると言うのはどうですか?」

私を正面から真っ直ぐ見ながら、彼はそう提案してきた。

「田崎さん1人で、と言われた訳では無いのでしょう?」

確かに、私1人でとは、言われていない。

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