ヘタレな野獣
「ありがとう」、何だか恥ずかしくて、声が小さくなる。


「いらっしゃい、おっ、タケ坊、久し振りじゃないか、へぇ、珍しいねぇ、女性と一緒とは・・・」
「こんばんは、もうからかわないで下さいよ・・・座敷空いてますか?」
「あいよ、一番奥の部屋、使いな」
「じゃ、適当に見繕って、後、瓶ビールを」


行きましょうか、と店の人と会話を終わらせ、私の前を歩くヨレヨレ君……


随分とフランクな感じだ、まぁここの常連だという事は2人の会話から推測できる。


座敷は四畳半程の落ち着ける和室だった。


「あっ、田崎さん、僕勝手にビール頼んじゃいましたけど、イケる口ですか?」

何を言うかと思えば……

「…イケるも何も、ビールなんてあたしに言わせりゃあ、水、みたいなもんだわね」
「おっ、頼もしいですね」


おちゃらけて、ヨレヨレ君はそう言いながら、上着を脱いだ。


丁度襖にハンガーがかかっていたので、私は無言で立ち上がり、彼の横に無造作に置かれた上着を取り、それに引っ掛けた。


「あっ、ありがとうございます」


ネクタイを緩めながら私を見ているヨレヨレ君に、また、不覚にもときめいてしまった。
ドキッドキッ・・・

一体私はどうしてしまったんだろうか・・・


暫くしてビールが運ばれ、何に乾杯するでもなく、グラスを合わせ、その後も店員さんの運んでくれる料理に舌鼓を打ち、他愛の無い話をしていた。
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