ヘタレな野獣
だったら私がイヤイヤ山下部長との食事に付き合う事は無いじゃない!

「悪いけど、止めてくれる?」
「えっ?…」
「馬鹿みたいじゃない、私・・・
武田!車を止めなさい、私は行かない、だから、車を止めなさい!」

感情のコントロールが利かなくて、つい大声を出してしまった。

「課長、・・・いいんすかねぇ」
「良い訳ありません、止める必要はありませんよ、そのまま走らせて下さい」


武田君にそう言った後、ヨレヨレ君は私の方を向いた。

「仕事の一環だと、あなたが言った事ですよ。
会社員である以上、仕事に穴を空ける事は許されません」

キツい目つきで私を捉え、視線を外す事を許さない。

「大丈夫です。部長が入れてくれている連絡で、先方は全てを理解していると思いますよ」

フッと緩んだ目元が、とても優しく思えた。

幾らヨレヨレ君の為だとはいえ、最悪、山下部長とそういう関係になるかも知れないと覚悟していた私は、緊張の糸が切れたかのように、一筋の涙が頬を滑り落ちた。


「たっ、田崎さん?どっどうかしましたか?」

そんな私を見て、ヨレヨレ君が焦りだした。


「課長、何補佐を泣かしてんすか!」

武田君もハンドルを握りながら、少し慌てたようだった。


「・・・ごめん、何でもないから、気にしないで・・・」


私はハンカチで涙を拭いながらそう言った。

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