アイ・ミス・ユー


その日の夜、久しぶりに結子を誘ってジンギスカンまるだにやって来た。


2人でこじんまりと女子会を定期的にやっている私たちは、オシャレなダイニングバーに行くこともあればこんな風にマトン肉の焼ける匂いがプンプンする老舗も利用する、雑食女子である。


まるだと言えば今野、を思い浮かべてしまうのは、ここ数ヶ月でけっこうな頻度で足を運んでいたからだ。


「いただきま〜す」


カウンター席で声を揃えて、目の前の七輪でジュージュー言っているマトン肉にかぶりつく。
結子が隣でハフハフとお肉の暑さと格闘していた。


付き合い始めてすぐに同棲した結子と金子くんは、家事もうまい具合に分担して仲良くやっているらしい。
一応、彼女の恋人に気を遣って、前のように頻繁にご飯に誘うのは意識的に減らしていた。


そんな結子に話しかける。


「急に誘っちゃってごめんね。金子くん、今頃寂しがってるんじゃない?」

「ううん、全然。むしろ樹理の悩みをしっかり聞いてこい、って言われたんだけど……。なんのこと?」


キョトンとしている結子の顔を見ていたら、何故か金子くんの悪巧みしている顔が思い浮かんだ。


あの男、勝手に解釈するんじゃない!


「なんのことだか分かんない。悩みなんて何も無いけど」

「え〜、ほんと?じゃあ基之くんの勘違いかな」

「私は単に美味しいジンギスカンが食べたかっただけ」


そうだよねぇ、と結子が笑う。
彼女が敏感な方じゃなくて良かった。
変に勘づかれて色々聞かれても、なんと答えればいいか思いつかないし。


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