アイ・ミス・ユー


飛び跳ねるようにして今度は酒田部長のデスクへ小走りしていく翡翠ちゃんを見送った今野くんが、それはそれは深いため息をついていた。


なんだか、少し不憫。


「今野くん、お疲れ。大丈夫?」


一応声をかけてみると、待ってましたとばかりに彼はキラリと瞳を輝かせてこちらに顔を向けた。


「大丈夫じゃないっす。だから綾川さん……今夜、カラオケ行きませんか?」


げ、そう来たか。
フイと目をそらしてはぐらかす。


「んんっ、んんん!ちょっと喉の調子が良くないのよね。んんんん!」

「そのわざとらしい咳払い、やめてもらえません?そろそろ綾川さんの中島みゆき聴きたくなってきましたよ」

「んん!まーまーまー」

「声出てますよ」

「いや、ダメだー。本来の調子じゃないから今日は無理だわ」


結局こうして私は今野くんの巧みな(?)話術に引き込まれて、私語に付き合ってしまうのよね。
我ながら情けない。


カラオケは嫌いではないが、残念ながら好きでもない。
学生時代はよく行ったものだけど、社会人になってからは歌番組もあまり見なくなったこともあって流行から逸れていった。


今野くんは積極的にフェスとやらに参加して、音楽を楽しんでいるらしい。

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