偽りの姫は安らかな眠りを所望する
「セオドールさんが、フィリス様の叔父様というのは本当なんですか」

いきなり本題をぶつけたティアに、セオドールは眉尻を下げ少し困った顔を寝台のフィリスへ向けた。

「彼はまだ知らない。そろそろ話さなければいけないとは思っていたんだ」

「なんで早く名乗ってあげなかったんですか? フィリス様がどれだけ喜ばれるか」

実の叔父がこんなに身近にいたと彼が知ったら、どんなに心強く思うだろう。
まさか彼までラルドのようになにか隠しているか。
脳裏に浮かんだ負の予感を、ティアは必死で打ち消す。

それなのに、セオドールは寂しげに長い睫毛を伏せた。

「それはどうかな。僕は、姉がその人生と命をかけて守ろうとしたものを捨てた人間だから」

お茶のおかわりを勧めるセオドールを断り、話の先を催促する。壁側を向いて眠るフィリスが僅かに身動いだような気がして、ティアは声を潜めた。

「いったいなにがあったんです? 身元を隠してまでフィリス様のお側にいるのに」

「……ティアは、姉がなぜ王宮に上がったのかを聞いている?」

慎重に頷くと、セオドールは「そう」と小さな溜息を漏らして、机の上に生けてあった一本の薔薇を手に取る。剪定されて日が経っていたのか、花びらが数枚はらりと散った。

「父が偶然見つけた、たった一株の薔薇に目を付けたのは、初めは純粋にこの地の特産にしようと思ったからなんだよ」

この国でも薔薇を使った香料の需要は高い。これだけの強い香りを持つ薔薇を大量に生産することができれば、領内が潤う。そう考えたのだ。

発見したのが、気候が不安定で思うような農作物の収穫が得られなかった翌年だったことも関係していた。

「だけど、新しい品種を創り出すことがそれほど簡単ではないというのは、君なら知っているよね?」

より美しく、より強く良い芳香を放つ花を。それを完成させるまでには、長い年月と膨大な手間暇がかかる。そのうえ薔薇は害虫にも病気にも弱い。

「そもそもまったくの素人だった父が、それに手を出したのが間違いだった。だけどそれに気づく前に、すっかり魅入られてしまっていたんだよ、この薔薇の姿にも香りにも」
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