偽りの姫は安らかな眠りを所望する
ティアがセオドールを窺うようにコクンと小さく息を呑む。

「じゃあ、ロザリー様が亡くなったときは……」

「知らせをもらって大急ぎで帰国したけれど、とっくに葬儀も埋葬も終わっていたよ」

薄い笑いで応える彼の心中を慮ると胸が痛んだ。

「庭でぼうっと空を見上げているフィリスを見たときは、心臓が止まりそうになった。姉が小さくなってそこに現れたのかと思ったんだ。その頃はまだ彼が女の子だと信じていたからね」

幼い日のフィリスが瞼に浮かんだのか柔らかく目を細めてから、広い肩を小さく丸める。

「だけど僕は、初めて目にした姉の子にも会わずにその場から逃げ出してしまった。ここに戻ってきたら、自分も父のように心を潰されてしまうかもしれない。姉のように、理不尽に命を奪われるかもしれない。そう思うとどうしようもなく恐ろしくなって。そのまま学校には戻らずにあちこちを点々として、いろんな仕事をしながらなんとか食いつないで暮らしていた」

「セオドールさんが、ですか?」

「意外?」と訊かれて迷わず頷いてしまう。きちんと服装を整えれば明日にでも社交界の中心になれそうな、優しげな風貌からは想像できない。

けれどセオドールはそれ以上は語らず、またも曖昧な笑顔ではぐらかされた。
いくら没落した家とはいえ良家で育ちのまだ十代だった彼が、市井に混じってひとりで生きてきたからには、それなりの苦労を伴ったことは容易に推測できる。人には言いたくないこともあるのだろうと、ティアは疑問を引っ込めた。

「そんなふらふらした生活を五、六年くらいしてたかな。偶然仕事でこの近くまで来た時、ふと思い立ってあの丘に立ち寄ったんだ。そうしたら、運悪くダグラスにみつかっちゃってさ。叱られるは泣かれるはで、ほんと困っちゃったよ」

セオドールは静かに思い出し笑いをしているが、あの強面のダグラスが泣くなんて信じられない。ティアが目を白黒させていると、スラリとした人差し指を唇の前に立てて片目を瞑る。

「ふたりだけの秘密にして? 彼に怒られちゃうから」

整った顔立ちでイタズラな表情をされ、ティアの心臓が無駄な動きを始める。言われてよくよく見てみれば、髪も瞳も色こそ異なるが、知的な眉の形や優美な弧を描く薄い唇は、確かにフィリスと似ていた。
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