偽りの姫は安らかな眠りを所望する
サランの村に疫病が広がった時、皆がなんと言っていたか。両親が病に倒れた時、ティアはなんと思ったか。
『偉い人はなんにもしてくれない』
それを思い出して、グッと唇を噛んだ。
もちろん上に立つ者に、この世で起こるすべての責任を押しつけようとは思わない。それに、セオドールが苦しむ民を見捨ているような領主になるとも思っていない。
だがどうにもならない困難に向かい合うと、人は誰かに頼りたくなるし期待する。そしてそれが裏切られた時、人心は簡単に失望へと変化し、行き場のなくなった怒りをぶつけてくる。
「抱えるものが多くなればなるほど守るのは難しくなるんだよ。だから全てを捨てることにした。父のようになるのが怖かったから。――僕は父と同じ、弱い人間なんだ」
自分の生活で手いっぱいのティアには、それがいけないことだとも、良いことだとも言えなかった。
俯いてしまった彼女に、セオドールは「ごめんね」と謝る。彼とて、ティアに何らかの答えを求めようとはしているわけではないのだ。
「もうすぐフィリスはここを去ることになるだろう。そうしたら、僕もあの館を出るつもり」
「そんな……」
思わず顔を上げたティアに、セオドールは儚く微笑む。
「僕がここに戻った時、なぜか姉の墓の横に数株だけあの薔薇が咲いていたんだ。それをヘルゼント伯爵の援助を受けて、あそこまで増やすことができた。このまま順調にいけばこの地の特産とすることも不可能じゃなくなる。あとはヘルゼント伯爵に任せて――」
「……なんで今頃」
寝台が軋む音を立てる。ふたりが目を向けると、起き上がった寝台の上で髪をかき上げた手の下から、鋭い眼光でフィリスがセオドールを睨みつけていた。
『偉い人はなんにもしてくれない』
それを思い出して、グッと唇を噛んだ。
もちろん上に立つ者に、この世で起こるすべての責任を押しつけようとは思わない。それに、セオドールが苦しむ民を見捨ているような領主になるとも思っていない。
だがどうにもならない困難に向かい合うと、人は誰かに頼りたくなるし期待する。そしてそれが裏切られた時、人心は簡単に失望へと変化し、行き場のなくなった怒りをぶつけてくる。
「抱えるものが多くなればなるほど守るのは難しくなるんだよ。だから全てを捨てることにした。父のようになるのが怖かったから。――僕は父と同じ、弱い人間なんだ」
自分の生活で手いっぱいのティアには、それがいけないことだとも、良いことだとも言えなかった。
俯いてしまった彼女に、セオドールは「ごめんね」と謝る。彼とて、ティアに何らかの答えを求めようとはしているわけではないのだ。
「もうすぐフィリスはここを去ることになるだろう。そうしたら、僕もあの館を出るつもり」
「そんな……」
思わず顔を上げたティアに、セオドールは儚く微笑む。
「僕がここに戻った時、なぜか姉の墓の横に数株だけあの薔薇が咲いていたんだ。それをヘルゼント伯爵の援助を受けて、あそこまで増やすことができた。このまま順調にいけばこの地の特産とすることも不可能じゃなくなる。あとはヘルゼント伯爵に任せて――」
「……なんで今頃」
寝台が軋む音を立てる。ふたりが目を向けると、起き上がった寝台の上で髪をかき上げた手の下から、鋭い眼光でフィリスがセオドールを睨みつけていた。