偽りの姫は安らかな眠りを所望する
*

城は月の出ていない夜の闇に包まれていた。

「時折起こされる軽い胸の発作だそうです。すぐに治まったとのことですが、明日の式典のこともあり、大事を取って今宵の陛下との晩餐は取り止めとなりました」

国王の容態の報告をカーラから受け、 フィリスはほっとしている自分に驚く。だがそれは、今彼に死なれては困る理由があるからだと、自身を納得させた。

「フィリス様。お顔の色がずいぶんと優れないようですが」

カーラが、額に手を当て目を伏せるフィリスの顔を心配そうに窺う。
思えば自分は、彼女には産まれた時ーーそれ以前から心労ばかりかけ続けているようだ。
フィリスは顔を持ち上げて微笑んだ。

「大丈夫。寝ていないせいだろう。でもそうだな。やはりあの香薬を煎じてもらえないか? できるだけ濃く。今夜も眠れそうにないから」

あの匂いを思い出したのかカーラは盛大に眉をひそめたが、疲労の色が濃いフィリスの姿に渋々了承してくれた。

彼女が気を利かせて、煎じる際の匂いができるだけ届かないよう、離れた厨房まで行っている間に、今度はコニーに頼みごとをする。

「葡萄酒をひと瓶用意して欲しい。できれば、香りの良いものがいいな。それから、丈の長い外套は荷の中にあっただろうか。それに替わるものでも構わない」

「外套、ですか? 探してみますけど」

国の北に位置する王都でも、まだ防寒の必要な季節ではないと不審がるコニーを言いくるめ、フィリスは重ねてお願いした。

主の扱いには少々難がある使用人たちだが、依頼した仕事は責任を持って果たしてくれる。就寝の準備が整う頃までには、注文したものがすべてフィリスの元に届けられた。
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