偽りの姫は安らかな眠りを所望する
その日の夜。いつも通り王女へ就寝前の香茶を用意し、カーラを探したティアだったが、彼女が見あたらない。
ほかの人たちも、後片付けや明日の準備などでそれぞれに忙しそうだった。

お茶を出すだけだ。別にカーラでなくても問題ないだろう。
それにティアには、フィリスの体調を聞き出す絶好の機会だという下心も、少なからずあった。

ティアは茶の用意に加え、階段を駆け上って自室にいくつかの小瓶を取りに戻り、小振りの盥に張った熱い湯などを用意した。

零さないように慎重にワゴンを曳きフィリスの部屋の前までやってくると、一度深呼吸をする。
王女とまともに会話をするのは、初日以来だった。遠慮がちに扉を叩くと名乗る。

「姫様、ティアです。お休み前のお茶をお持ちいたしました」

厚い木扉の向こうへ届くように声を張ると、中から返答の代わりにガタゴトと少々大きめの音が聞こえる。

まさか、曲者でも!? 途端、ティアに緊張が走る。

思えばこの館には、王族の住まいだというのに警護の兵士さえ常駐していないのだ。不用心にもほどがある。

「フィ、フィリス様っ! 大丈夫ですか!!」

心配になるが、勝手に扉を開けることは躊躇われる。
助けを求める声でも聞こえれば、すぐさま飛び込むのだが。
ティアが葛藤していると、やがて静かになった部屋の扉がゆっくりと開かれた。

「……カーラはどうした?」

細く開けられた扉の隙間から、不機嫌そうな顔が現れる。
だがティアにはそんなフィリスの機嫌よりも、姫の身に何事もなかった事実の方が重要だ。

「フィリス様、ご無事でしたか」

安堵の息をつくと、慌てて一礼する。

「申し訳ありません。カーラさんはお忙しいみたいで、かわりにあたしがお持ちしました」

と、上げた視界に見えたのは、この季節なのにすっぽりと大判の肩掛けを羽織ったフィリスの姿だった。

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