偽りの姫は安らかな眠りを所望する
息苦しささえ感じる沈黙が続き、やがて飲み終えたカップを差し出された。
受け取るときに微かに触れたフィリスの指が、氷のように冷たいことが気にかかる。
「あたしの香茶は、少しはお役に立てていますでしょうか?」
灯りが控えられた室内で見る王女の顔色からは、その体調が推し量り難い。
不眠が解消されていないようなら、配合を変えなくてはいけないだろう。
「……夜はあいかわらず、ほとんど眠れていない。その代わり昼間に多少休めている。さほど問題はない」
そう、億劫そうに話す声はまだ掠れ気味だ。ティアは己の力のなさが歯痒くなる。
だがいまは、自分にできることを、精一杯やるしかない。
「少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか」
「なにを?」
不審そうに顔を上げたフィリスの許可を待たずに、曳いてきたワゴンの元へと戻る。
被せてあった覆いを取ると、盥からはもうもうと湯気が上がった。
そこへ部屋から取ってきた小瓶の中身を数滴垂らす。すると湯気に乗り、ふわりと柑橘系の甘酸っぱい香りが立ち上る。
火傷に気をつけながら盥に手拭きをひたしてよく絞ってから、ティアはまた寝台へと戻った。
「手をお借りします」
またもや返事を聞かず、膝を抱えていたフィリスの片方の手を取った。
ひやりとした白い手を先ほどの布で優しく丁寧に拭くと、仄かな香りとともに温度がフィリスの手に移っていく。
もう一度ひたした布で、今度は逆の手を同じように温め清める。
その間中、フィリスはただ呆然と成り行きを見守っていた。
拭き終えられた両手を顔の前で広げ、裏表を不思議そうに眺めているうちに、ティアは厨房でわけてもらた油に、小瓶から精油を垂らす。
王女の台所を預かるだけあって、使われている油も良質なものだ。
さらさらとしたそれから、先ほどとは違う種類の甘い花の香りが放たれる。
ティアは凹ませた手のひらに取り、、それを自分の両手の中で温めるように塗り広げると、再びフィリスの片手を持ち上げた。
受け取るときに微かに触れたフィリスの指が、氷のように冷たいことが気にかかる。
「あたしの香茶は、少しはお役に立てていますでしょうか?」
灯りが控えられた室内で見る王女の顔色からは、その体調が推し量り難い。
不眠が解消されていないようなら、配合を変えなくてはいけないだろう。
「……夜はあいかわらず、ほとんど眠れていない。その代わり昼間に多少休めている。さほど問題はない」
そう、億劫そうに話す声はまだ掠れ気味だ。ティアは己の力のなさが歯痒くなる。
だがいまは、自分にできることを、精一杯やるしかない。
「少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか」
「なにを?」
不審そうに顔を上げたフィリスの許可を待たずに、曳いてきたワゴンの元へと戻る。
被せてあった覆いを取ると、盥からはもうもうと湯気が上がった。
そこへ部屋から取ってきた小瓶の中身を数滴垂らす。すると湯気に乗り、ふわりと柑橘系の甘酸っぱい香りが立ち上る。
火傷に気をつけながら盥に手拭きをひたしてよく絞ってから、ティアはまた寝台へと戻った。
「手をお借りします」
またもや返事を聞かず、膝を抱えていたフィリスの片方の手を取った。
ひやりとした白い手を先ほどの布で優しく丁寧に拭くと、仄かな香りとともに温度がフィリスの手に移っていく。
もう一度ひたした布で、今度は逆の手を同じように温め清める。
その間中、フィリスはただ呆然と成り行きを見守っていた。
拭き終えられた両手を顔の前で広げ、裏表を不思議そうに眺めているうちに、ティアは厨房でわけてもらた油に、小瓶から精油を垂らす。
王女の台所を預かるだけあって、使われている油も良質なものだ。
さらさらとしたそれから、先ほどとは違う種類の甘い花の香りが放たれる。
ティアは凹ませた手のひらに取り、、それを自分の両手の中で温めるように塗り広げると、再びフィリスの片手を持ち上げた。