偽りの姫は安らかな眠りを所望する
盆を受け取ったカーラの表情が穏やかに緩む。

「ええ。珍しく明るくなるまで、一度も目が覚めなかったと仰っていましたよ。お顔の色も良さそうでした」

ようやくここで自分が役に立つことができたと、その言葉を聞いて安心する。
モートン夫妻のようにおいしい料理が作れるわけでも、コニーの持つ優美な衣裳を創り出す技術もない。
ティアができることといったら、マールから教えられた香薬の知識だけ。
それとて、まだまだ勉強不足の半人前だ。

「フィリス様はまた、施術させてくださるでしょうか。お許しいただけるのでしたら、毎日でも」

こういうことは継続してこそ意味を持つ。
昨日は、半ば不意打ちを狙ったようなもの。咎められなかっただけでも、幸運だったのかもしれない。
いままで、拒まれていると感じるほどの態度だったのだ。その態度が、昨日の今日で変わるとも思えない。

「……毎夜、ですか? そうですね、姫様に伺ってみないことには、なんとも」

案の定、難色を示すカーラの返答は渋いものになる。そこを、ティアは頭を下げてお願いした。

「お願いします。必ず、お役に立ってみせますから!」

ティアから少し異常なほどの必死さを感じたカーラは、困惑に眉をひそめため息を吐いた。

「それはお伺いしてみますけど……。でもね、ティア。あなたはいまでも十分よく働いてくれていますよ。もう少し、自分に自信をもってもいいのではないかしら」
「自信……ですか?」

思わぬ言葉を投げかけられ言葉に詰まる。この自分のどこに自信をもてというのだろうか。
そんなティアの戸惑いにカーラは微笑みだけを返すと、フィリスの自室へと向かってしまった。
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