偽りの姫は安らかな眠りを所望する
「フィ、フィリス様っ?」

戸惑うティアを半ば引きずるようにして強引に連れて行った先は、続き部屋になっている奥の寝室。その戸を乱暴に開けると、天蓋付きの広い寝台へ向けティアの腕を解き放った。

放り出されたティアは、寝台の上にそのまま仰向けで倒れ込む。
慌てて起き上がろうとする彼女の両手首を、フィリスが縫い止めるように押さえつけて阻止した。

さらりと彼の髪が肩から流れ落ちて、ティアの頬をくすぐる。

「なん、なんです、か?」

ティアだって、この状況が自分にとって好ましくないことくらいはわかっている。
だが、一見娘のようにほっそりと見えるフィリスの腕の力は彼女が抗えないほど強く、組み敷く彼から容易には抜け出せずにいた。

「なに? とか。 あんな話の後でのこのことやって来ておいて、その言い草はないだろう」

手首を握る手の力が強められ、ティアは小さな悲鳴を漏らす。するとほんの一瞬力が緩んだが、すぐさま元に戻ってしまう。

「アイツに言われたんじゃないのか? もし私が次の王になるつもりがあるようなら、おまえがヘルゼントの血を王家に混ぜるように、と」

「どういうことですか」

焦るばかりのティアの頭には、遠回しな物言いでは伝わらない。
察したフィリスがゆるりと口の端を片方だけ上げて、嘲るような笑みを作った。

「私の子を産めと言われたのだろう? だからそんな格好で訪ねてきたんじゃないのか」

「そんな……。違いますっ!」

直接的なフィリスの言葉でようやく理解し、束縛から逃れようと必死にもがくが、身体は僅かに動く程度。それでも肌に伝わってきた絹の擦れる感触が、ティアの頬を紅潮させた。

普段寝衣として着ている硬く粗い布地とはまったく異なる薄く滑らかな絹生地は、細身ながらも年頃の娘らしい身体の曲線を露わにする。こうして横になっていればなおさらだ。

身体を隠したくても両手は捕らわれたまま。恥ずかしさで顔だけがどんどん熱くなっていく。

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