どこまでも、堕ちていく。

「妄想は自由だからね!ある日突然若い男性が目の前に現れてー」
「由美さん…。ドラマの見すぎ」

クスクスと笑いながら歩いているとようやく前方に"さくら幼稚園"が見えてきた。
ママと手を繋いだ園児たちと何組かすれ違う。

「できればそううイメージがないピュアな男性がいいよね」
「ピュア?」
「この人絶対不倫なんてしないだろうなーって人。例えば…」
「?」
「直樹センセーとか♪」

『俺がどうかしましたかー?』

「!!」


その言葉に驚いて振り返ると、今噂をしていた張本人"山本直樹"が立っていた。


「な、直樹先生!?どうしてこんなところに?」

あからさまに挙動不審になる由美。
直樹はそんな由美と私のことを不思議そうな顔で見つめている。

「マーカーが切れちゃったので近くのホームセンターまで。お迎えですか?」

眩しいくらい爽やかな笑顔でそう言う直樹。
不倫の話をしていたことが恥ずかしくなるくらい無垢な笑顔だ。
確かに彼に不倫だとか浮気というイメージはない。
その前に恋愛経験すらなさそうにも見える。
…この年でさすがにそれはないか。

「月影さん。ちょっとお時間ありますか?」
「はい?」
「雅紀くんのことでお話したいことがあるんです」
「…?」





直樹に連れられて教室の中へと入った。
外の砂場では雅紀が他の園児たちと遊んでいる姿が見える。
その姿を確認しながら、私は直樹が用意してくれた椅子に座った。

「失礼ですが、最近ご家庭で何か変わったことありませんでしたか?」
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