俺様社長と結婚なんてお断りです!~約束までの溺愛攻防戦~
本当にお世辞のつもりはなかった。

なくてはならない人材ーーというよりも、羽衣子がいなければプリュムが生まれることは無かったのだから。

両親が死んだあの時、羽衣子が洸の背中を押さなければ、永瀬宝飾店は店仕舞いをしていただろう。

「あの事故から、もうすぐ10年ね。早いものだわ・・」

綾子はしんみりした口調でそう呟いた。
どこか遠くを見るような目は洸の両親を思い出しているのだろうか。

お喋り好きでいつも笑っていた母、典型的な職人気質で無口無表情だった父。

会えなくなって、もう10年も経つのか。
綾子の言うようにあっという間だった気もするし、途方もなく長かったようにも感じる。


最後となったあの日の事は、今までも鮮明に覚えている。


洸は幼い頃からおおよそ欠点の見当たらない人間だった。
母譲りの美形で、頭も良く、スポーツだって何をやっても人並み以上だった。
羽衣子に言わせれば性格に難ありらしいが、それで困った覚えもない。

何となく続けていたテニスではインターハイにも出場したし、大学も難関の国立にあっさりと合格した。

洸自身もどこか自分の能力に自惚れ、人生を容易い攻略ゲームの様に考えていた。


だから、あんな言葉が出たのだろう。
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