俺様社長と結婚なんてお断りです!~約束までの溺愛攻防戦~
普段ほとんど喋らない父親が珍しく改まった口調で聞いてきたのだ。
母親は一歩下がって、二人の様子を心配そうに見守っていた。

「洸。将来のことをどう考えてる? やりたい事とか夢とか何かあるのか?」

高校進学時はもちろん大学を決める時ですら何も言わなかったのに。
洸は一人っ子だし父親が店を継いで欲しいと考えてることは想像できた。
ただ、それならそうとはっきり言えばいいのにと何だか妙に苛立ったのだ。

「別に。まだ具体的には考えてないよ」

洸はあえて店のことには触れず、そっけなく答えた。

「そうか・・・」

それしか言わない父親に益々苛立ちを募らせた洸は余計な一言を言ってしまった。

「まぁ、せっかく一流って言われる大学に入ったんだし給料のいい企業に入ろうかなとは思ってるよ。

ーーこんな店継いでも、何にもならないしな」

洸のこの言葉に対する両親の反応はまるで正反対だった。

「洸っっ。あんた・・・何てことっ」

顔を真っ赤にして洸につかみかかったのは母親で、それを止めたのは父親だった。

父親はまぁまぁと母親を宥めると、洸に向き直った。

「そうか・・うん、わかった」

父親は穏やかな顔で微笑んでいた。
怒るでも、悲しむでもなく、ただ笑っていた。

それ以上、父親の顔を見ていられなくて洸は無言で両親に背を向けると部屋を出て行った。



・・・ずいぶん、小さくなったんだな。


猫背気味の父親の背中は、記憶にあるものよりずっと小さく感じた。


「将来かーー」

洸は美羽町商店街のアーケードの下をぼんやり歩きながら考えた。
魚屋のタイムセールに群がる主婦達、総菜屋の揚げたてのコロッケの匂い、子供達のはしゃぐ声。

夕陽に照らされる、慣れ親しんだ景色。

この場所は好きだ。

だけど、この場所で一生を終えるのか。

そんな人生を自分は本当に望んでいるのかーー。
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