俺様社長と結婚なんてお断りです!~約束までの溺愛攻防戦~
「けどさ、洸も羽衣ちゃんも美羽町の本店にはやっぱり思い入れが強いんだね。洸なんて冷血なまでの合理主義者な癖して、本店にだけは手出ししないからさ」

美羽町の永瀬宝飾店は本店と呼ばれてはいるものの実は今だにプリュムブランドにしていない。
昔のまま、永瀬宝飾店として残してあるのだ。

数千円で買えるアクセサリーや昔ながらの置き時計を今だに扱っている。
たまに依頼のある修理やリメイクも社内のデザイナーでなく社長自らが時間を見つけて対応している。

正直、本店だけの採算は赤字続きで、会計士や顧問からは潰してしまうかプリュムブランドにリニューアルしろと散々言われている。

けど、洸は絶対に首を縦には振らない。


「うん・・あそこは洸ちゃんの両親の想い出がいっぱい詰まってるから。
洸ちゃんはさ、あのお店を守るためにプリュムを立ち上げたんだと思うよ」


あのお店は羽衣子にとっても大切な場所だ。 無くしたくない。とは言え、このまま赤字が続くようでは先行きは厳しい。

「私なんかが何とか出来ると思ってるわけじゃないんだけどね。けど、馴染みのお客さんも多いし頑張ってみる価値はあると思うんだ」

誠治は少し驚いたように目を見開いた。
何事にも執着心のない羽衣子がそんな事を考えていたのがちょっと意外で、面白いと思ったのだ。

「あぁ、羽衣ちゃんはそれで本店に戻りたいって言ってるのか。
洸の世話が嫌なのかと思ってた」

「それも大いにある! 洸ちゃんは人使いが荒すぎる」

誠治はアハハと楽しそうに笑った。
柔らかな声が耳に心地よい。

洸が燦然と輝く太陽なら、誠治は冴え渡る月のようだ。

穏やかで理知的、誰に対しても優しい。

一見すると洸とは正反対のようだし、皆もそう思ってるみたいだけど、二人は案外似た者同士だと羽衣子は思っている。
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