イジワル御曹司と花嫁契約
 喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか。


 結婚する気がないのなら、この偽りの婚約は長く続くだろう。


仮に結婚する気があったとしても、私と彰貴が結婚するなんてありえない。


ありえないのに、どうして傷ついているんだろう。


なに、泣きそうになっているんだろう。


恋人でもないくせに。


 自分の愚かさに心底呆れてしまう。


本当に馬鹿。大馬鹿者。


 傷ついて、ようやく認めることができた。


私は彰貴のことが好きだ。好きになっていた。


あんなに好きになっちゃ駄目だって自分に言い聞かせていたのに。傷つくだけだからって。


 ああ、本当に自分が自分で嫌になる。


傷つくだけの恋愛に踏み込んでしまった。


気が付いたら、認めてしまったら、もう元に戻ることはできない。


好きな気持ちをなくすなんて、そんな器用なことは私にはできない。


ただ、傷ついていくだけだ。どこまでも深く、深く、傷を深めて、痛みの範囲を広げていくのだろう。


 夕日が沈み、辺りは一気に暗くなった。ちらほらと灯り始める電気たち。彰貴の顔が男の顔に変わっていく。


「隣いってもいいか?」


 いいと言う前に、もう隣に移動してきている。私の意見なんか聞く気すらない。


 距離を詰めて、頬を触り、甘い目線で私を誘う。


「キスしていいか?」


「嫌だよ、なんでキスするの」


 そう言いながらも、離れようとはしない私。


そして、嫌だと言っているのに、まるで承諾を得たかのように、顔を近付けてくる。


何をされるか分かっているのに、抵抗しない私。


 唇が重なり合う。ほら、また傷が深くなった。
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