イジワル御曹司と花嫁契約
死ぬわけじゃない、これからが始まりだと自分に言い聞かせるけど、波のように押し寄せる不安感を押しとどめることはできなかった。


 ただ話しているだけなのに、泣きそうになる。


私がしっかりしてなきゃ駄目なのに。


私が信じていなきゃ駄目なのに。


これからのことを思うと、怖くて、怖くて仕方なくなる。


 何度、彰貴に電話をしようと思っただろう。


メールを打とうと思っただろう。


 一人で立っているのが辛くて、ほんの少しだけ肩を借りたいと願うけど、彰貴の負担にはなりたくなかった。


私は本当の婚約者でもなければ、恋人でもない。


私は彰貴にとって、何者でもない。


不安を口にして、私は彰貴に何を求めようとしているのか。


 これからは、どんな状況になっても一人で歩いていかなきゃいけない。


いつも母に頼りきりだった。


今度は私が母を支えていくんだ。


だから、だから、強くならなきゃいけないんだ。


 そして、手術前日。


母の体調はとてもいい。


先生も「必ず成功させます」と力強い言葉をくれた。


 母のために用意された個室は、一泊数万円はしそうな(具体的な数字は知らない)高級な部屋だった。
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