イジワル御曹司と花嫁契約
 自嘲気味に笑うと、母は眉をしかめた。


「そういうことじゃなくて。私から見たら彰貴さんの方が胡桃に惚れてるように見えたわよ」


「何言ってるの! そんなことあるわけない!」


 むきになって否定する私を、母は軽く受け流す。


「二人のことは、二人が向き合っていくことだから、あんまり口出ししたくないんだけど、胡桃はいつも我慢ばっかりしちゃうから。

相手のことを考えすぎて、素直になれずに苦しんでこじらせちゃってるんじゃないかなって思ってたの」


 ドキリとした。言い当てられて、怖いくらいだった。


でも、関係はこじれてはいないはず。


彰貴の負担になるようなことはしてないし、私の恋心は必死に隠している。


 黙っている私に、母は優しい微笑みを浮かべた。


「もっとわがままになっていいんだよ。自分のために生きていいんだからね」


 泣きそうになった。


母の気持ちが痛いくらい伝わってきたから。


まるで遺言のようなその言葉は、とても温かくて愛に溢れていた。


「……うん」


 涙を堪えながらした返事をしたけれど、実際どうやったらそういう風に生きられるのか分からなかった。


わがままを言うくらいなら、我慢をしていた方が楽だし、自分のために生きるよりも母のために生きる方が大切だ。
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