イジワル御曹司と花嫁契約
「開けられない。もう、別れてください。お願いします」


「会って話もせずに納得できるわけないだろう」


「ごめんなさい。お願いします」


 苛立ちを必死で抑えている声に、感情を殺してただひたすら謝る。


こんな風に突然シャットアウトされたら、とても傷付くと思う。


私は今、彰貴を残酷なやり口で傷付けている。


酷い女だったと罵って、嫌って、綺麗に忘れればいい。


「理由を教えろ」


「言ったでしょ。最初から好きじゃなかったの。もう終わりにしてください」


 長い沈黙が訪れる。


ドアに額を押し付けて、俯きながら立ち竦む。


ドア一枚の距離が、私たちを隔てている。


 愛している、さようなら。


言いたい言葉をぐっと飲み込む。


「……分かった」


 数分の沈黙は、永遠にも思えるくらい長かった。


ただ一言呟いた声が、私の胸に深く突き刺さった。
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