イジワル御曹司と花嫁契約
去っていく私の後ろ姿に声を投げるも、私は聞こえていないふりをして全速力で逃げた。


 あんなことを言ったものの、実はびびっていた。


心は屈しない自信はあるけれど、とんでもない金持ちに睨まれたら、うちみたいな小さな店は吐息一つで吹き飛ぶ。


顔を覚えられないうちに逃げてしまえというのが本音だった。


 走って逃げてきたはいいものの、大ホールに戻って食事を再開する気には到底なれない。


あれだけ目立ってしまったんだから、戻ったら後ろ指さされるのが目に見えている。


どこか人気のないところで船が到着するのを待つしかないだろう。


 まったくとんだ災難だ。


やっぱり私には豪華客船なんてそもそも性に合わないんだ。


 人のいないところを選んで歩いていくと、外へ続くドアを見つけた。


重いドアを開けて外に出ると、潮風が髪をなびかせた。


ライトアップされた船上。


漆黒の空と海の中で、青と黄色の光が幻想的にデッキを照らしている。


 風が強くて、髪もスカートも飛ぶように揺れている。


見回すとデッキには誰もいないようだった。


それもそうか、大ホールで盛大なパーティーが開かれているのに、風が強くて何もない外に出る人なんて、人目を避けて彷徨っている私くらいなものだ。
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