イジワル御曹司と花嫁契約
「げっ!」


 顔が見えて、思わず声が出てしまった。


ハイヒールを拾った人物は、先ほどの嫌味な金持ち男性だった。


「なにが『げっ!』だ」


 顔を上げて私を見つめながら、不愉快そうに言う。


眉間に皺を寄せた顔も、憎らしいほどに絵になる。


でも私は、いくら顔がいいからって性格が悪い男は嫌いだ。


「ちょっと、返してよ!」


「さて、どうするかな」


 ニヤリと意地悪な笑みを浮かべて私の出方を待っている。


本当、嫌な奴!


「その靴は私の大事な物なの!返して」


「まあそもそも靴が少ないだろうからな、そりゃ大事だろう」


「そういう問題じゃなくて!」


 焦って困っている様子の私を見て嬉しそうに顔を綻ばせている。


なんなのこいつ!


腹が立って、左足のハイヒールを脱いでその顔にぶつけてやりたくなった。


お母さんのだから投げられないのが悔しい。


「返してやる。その代わり、逃げるなよ?」


「……分かったわよ」


渋々頷くと、彼はハイヒールを手に持ち梯子を登って来た。


梯子を登りきり、頂上に到着すると、彼は周囲を見回した。


辿り着いたそこは、幅一メートルほどの道になっていて、船内をぐるりと回れるようになっている。


端は転落防用の手すりがあって、そこから覗き込むと海が真下に見える。
 
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